ダークマターについて DARK MATTER

宇宙で目に見える物質はたった5%

宇宙が何でできているかを調べてみると、われわれが知っている、陽子や中性子など”目に見える”(観測されている)物質は全体の約5パーセントにすぎません。その5~6倍は未知の物質(ダークマター)が占めていると考えられます。残りはダークエネルギーと呼ばれている正体不明のものです(図1)。これまで宇宙の観測に利用されてきたのは、主に光やX線、赤外線などの電磁波ですが、”暗黒”物質というのは、電磁波での観測では見ることができないため、”暗黒(ダーク)”という呼び名がついています。

ダークマター存在の証拠はいくつもある

ダークマターは様々な観測からその存在が示唆されてきました。1970年代後半、渦巻き銀河の回転速度分布を観測し、銀河内の明るい星や星間ガスではない、光では観測できないが重力を感じる物質の存在を立証しました(図2)。また、非常に重い物質(すなわち大きな重力)があると光が曲げられる、という「重力レンズ効果」からもダークマターの存在を示す証拠が得られています。

宇宙の成り立ちと密接に関わるダークマター

さらに、現在の宇宙は、銀河、銀河団、何もない空洞などが複雑に連なった大規模構造を形作っていることがわかってきました。この成り立ちは次のように考えられています。初期の宇宙のわずかなゆらぎ(図3)からダークマターの密度に差が生じ、密度の濃いところは重力によってさらにダークマターを引き寄せていき、しだいに目に見える物質であるチリやガスも引き寄せ、やがて星や銀河が形成されていきました。このようにダークマターは宇宙の成り立ちに非常に密接に関わっているのです。

観測の成功は新しい物理と宇宙の謎の解明につながる

ダークマターの正体は分かっていませんが、これまでの観測事実からいくつかのその性質が推測されます。(1)電荷を持たず、(2)重さを持ち、(3)安定である、ことです。このような物質は、現在われわれが知っている素粒子では説明ができません。新しい理論に基づく、未発見の素粒子が必要となります。その有力候補の一つがニュートラリーノと呼ばれる素粒子です。ニュートラリーノは、弱い相互作用をする重さのある粒子、WIMPs (Weakly Interacting Massive Particles) の一種で、
その中でも理論的に存在が強く期待されている粒子です。

 

われわれの身の回りにもダークマターは1リットル当たり約1個ほど存在すると考えられています。しかし、いまだ実験的に直接捕えられていません。ダークマターの直接観測は、現在の宇宙物理の最も大きな課題の一つです。直接観測に成功すれば、その正体を解明する手がかりが得られます。そして、ダークマターの正体が分かれば、宇宙創成メカニズムの理解が大きく進展すると考えられます。

他のダークマターの候補

有力候補のニュートラリーノを含むWIMPs以外にも、様々な未発見粒子がダークマターの候補として考えられています。アクシオンと呼ばれる粒子やアクシオンの類似粒子、光子の類似粒子ダークフォトンなどが多数の研究者によって研究されています。(詳細は「進んだ解説」を参照のこと)

ダークマターの正体を明らかにするには、これらを含めて広く探索することが重要だと考えられています。