

スーパーカミオカンデについて
ニュートリノとニュートリノ振動
ニュートリノって何?
スーパーカミオカンデで研究されている、ニュートリノとは何でしょうか?ニュートリノは数十年前に発見され、ニュートリノ研究は今、科学の最前線となっています。
ニュートリノの歴史、ニュートリノの性質、そしてニュートリノ振動についてご説明します。
ニュートリノの歴史
「1930年ニュートリノが考え出される」
オーストリアの物理学者パウリは放射性元素の研究をしていました。 原子核が出す放射線(ベータ線)のエネルギー分布を研究しているとき、パウリはエネルギーがどこかへ消えてしまうことをどう説明すべきか悩みました。
そして「電気を帯びていなくて、知らないうちにどこかへ飛び出してしまう、幽霊のような粒子があると考えるとつじつまが合う」と考えつきました。 このとき、パウリはこの粒子を「ニュートロン」と呼んでいましたが、これが今日のニュートリノだったのです。ニュートリノは本物が発見される前に、科学者の頭の中で生まれたのです。
「1933年ニュートリノに名前が付く」
イタリアの物理学者フェルミは、パウリの考えた粒子について研究しベータ崩壊の理論を構築していました。1932年に現在のニュートロン(中性子)が発見されていましたので、幽霊粒子のほうを「ニュートリノ」と名づけ直しました。「ニュートラル」は中性、つまり電気を帯びていないという意味、「イノ」はイタリア語で小さいという意味です。
「1956年初めてニュートリノが発見される。」
アメリカの物理学者ライネスらは原子炉から生まれるニュートリノを捕まえることに成功しました。命名から20年以上経って、やっとニュートリノは発見されたのです。
「1970年代太陽からのニュートリノを観測」
1969年からアメリカの物理学者デイビスが太陽ニュートリノの観測を開始しました。長年実験を重ねた結果、ニュートリノは理論からの予想の1/3程度しか発見されませんでした。このことは、「太陽ニュートリノ問題」と呼ばれ、その後約30年間にわたる物理学上の大問題となりました。
「1987年超新星爆発からのニュートリノを観測。」
1987年1月、カミオカンデグループが太陽ニュートリノの観測を開始。 そのわずか1ヶ月後、16万光年彼方の超新星1987Aからやって来たニュートリノを捕まえました。 ここから「ニュートリノ天文学」という新しい学問が始まったのです。
「1989年太陽から来るニュートリノが足りない」
カミオカンデグループが太陽ニュートリノの観測を2年間続け、その数が理論より少ないことを発表しました。デイビスとカミオカンデの2つの観測で同じ結果がでたので、太陽ニュートリノの研究がより活発に行われるようになりました。
「大気からのニュートリノの成分比がおかしい」
同じ頃、カミオカンデグループは観測を続けていた大気ニュートリノのデータを調べ、電子ニュート リノとミューニュートリノからなる成分比が理論の予想と違っている事を発見しました。このことは、後のニュートリノの重さの発見へとつながる重要な結果でした。
「1996年スーパーカミオカンデが完成」
4年以上の歳月をかけて、世界最大、世界最高精度のニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」が完成しました。 そしてニュートリノ研究の新世代が始まったのです。
「ニュートリノには重さがあることを発見」
スーパーカミオカンデグループは、ニュートリノに重さがある、ということを世界で初めて、発見しました。 それは、素粒子物理学上の基本的な理論の見直しを迫る、たいへん重要な発見でした。
ニュートリノの性質
ニュートリノはその名前が表す通り、中性の(電気を持たない)小さい粒子(素粒子)です。それでは、素粒子とはなんでしょうか。
宇宙を構成するすべての物質は、クォークとレプトンという素粒子の仲間から形成されています。例えばクォーク3つからできる陽子1つと、レプトンの仲間である電子1つを組み合わせて水素原子が作られます。
このクォークとレプトンは,それぞれ,自分とペアになる粒子を持っています。ペアになる粒子は電荷が1つ異なるという特徴があります。クォークを例にとると、一番軽いクォークはアップクォークと呼ばれ、電荷は+2/3ですが、そのペアとなるクォーク(ダウンクォーク)の電荷は-1/3です。
レプトンの場合、1つは電子で、そのペアとなっているのがニュートリノです。電子の電荷は-1であり,ニュートリノの電荷は、それから1つ分異なった0となっています。
つまり、ニュートリノは電荷を持ちません。
ニュートリノは電荷を持たないため、他の物質とほとんど反応しません。地球すら容易に貫通してしまうほどです。そのためニュートリノの観測は非常に難しく、長年その性質は謎に包まれていました。
ニュートリノは宇宙で最も豊富な素粒子の一つで、身の回りを光速で飛び交っており、私達の体を1秒間に数百兆個も突き抜けていきます。しかし、ニュートリノは他の物質とほとんど反応しないので、私達がそれを感じることはありません。
何でも通り抜けてしまうニュートリノですが、宇宙からは大量のニュートリノが降り注いでいるため、まれに物質と反応することがあります。スーパーカミオカンデは大きな水槽でニュートリノをとらえようとしているのです。
ニュートリノには電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類があります。これは「フレーバー」による分類です。
一方、ニュートリノは「質量」という分類で分けることもできます。m1, m2, m3という3つの異なる質量を持つ、ニュートリノ1、ニュートリノ2, ニュートリノ3の3種類です。
このフレーバーによる分類と質量による分類とは、実は一致しません。一つのフレーバーを選んだ時、それは異なる質量のニュートリノの混ざり合いになっています
つまり、例えば、「電子ニュートリノ」と言った時、それはニュートリノ1、ニュートリノ2, ニュートリノ3が混合したものなのです。これを「ニュートリノ混合」と言います。
ニュートリノ振動
ニュートリノは、「粒子」であると同時に「波」としての性質を持ちます。そのため、それぞれ異なる質量を持つニュートリノ1、ニュートリノ2, ニュートリノ3は、それぞれ異なる振動数を持つ「波」として空間を伝播します。
ニュートリノのフレーバーは、質量の決まった波の重ね合わせとなり、ニュートリノが空間を飛ぶ間に波の位相が変化し、フレーバーの種類が移り変わります(右図参照)。
この現象をニュートリノ振動と呼びます。ニュートリノ振動はニュートリノが質量を持ち、かつ、ゼロではないニュートリノ混合があるときに起こる現象です。
ニュートリノ振動は、1998年にスーパーカミオカンデ実験で発見されました。宇宙から飛んでくる宇宙線が大気と衝突して生成される「大気ニュートリノ」の中に含まれるミューニュートリノを観測すると、地球の裏側からやってきたミューニュートリノの数は、上からやってきたミューニュートリノの数の半分しかありませんでした。ミューニュートリノが地球の内部を通って来る間に、タウニュートリノに変化してしまったためです。
ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノがわずかながら質量を持つことが証明されました。それまではニュートリノの質量は0だと考えられていたので、その発見は素粒子の枠組みを説明する「素粒子標準理論」に見直しを迫る、画期的な結果でした。
ニュートリノ振動はその後、太陽ニュートリノや人工ニュートリノビームでも確認されました。
ニュートリノの混合は、3つの混合角θ12, θ23, θ13と、CP位相のパラメータで表されます。これまでのニュートリノ振動の研究から、3つの混合角とニュートリノの質量の2乗差m12-m22, m22-m32が測定されました。
残る未解明の問題は、CP位相のパラメータ、ニュートリノ質量の順番、ニュートリノ質量のそれぞれの値です。また、ニュートリノの質量がなぜ電子やクォークの質量に比べて100万分の1以下と非常に小さいのかという問題は謎に包まれています。
素粒子のしくみを説明する標準理論は、ヒッグス粒子の発見により完成されたとみられています。しかし、これまでわかったニュートリノの質量や混ざり具合は、なぜかクォークのそれらと比べて大きく異なり、素粒子の標準理論のほころびだと考えられています。つまり、標準理論は全ての物理現象を説明する完全な理論ではなく、標準理論を超えた未解明の素粒子理論が存在する可能性を示唆しています。統一理論と呼ばれるものなどがその候補だと考えられています。
ニュートリノ振動実験は、統一理論など、未解明の素粒子理論を解明するための重要な手がかりを与えると世界中の研究者から期待されています。
5分で分かる!ニュートリノのひみつ
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