XMASS実験により極めて弱く相互作用するボゾンが暗黒物質である可能性を排除

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このたびXMASS実験グループの発表した論文の一つ“Search for Bosonic Superweakly Interacting Massive Dark Matter Particles with the XMASS-I detector”(XMASS-I検出器を用いた極めて弱く相互作用するボゾン型暗黒物質の探索)が、アメリカ物理学会の学術誌Physical Review Letters (PRL)のEditors’ Suggestionに選ばれました。 PRLは物理学の分野で最も高い評価を受けている雑誌ですが、さらにその中でおよそ6本に1本程度の割合で編集者が選抜するものです。これは本論文が重要で、興味を引く論文であり、広い読者層に読んでもらいたいとの高い評価を受けたことを意味します。

さて、この論文の重要性は何でしょうか。現在宇宙の研究者の殆どは、光では見えない、通常の物質とは異なる性質を持つ未知の物質やエネルギーで満たされていると考えています。その未知の物質は暗黒物質とよばれ、世界中の研究者が探索を行っていますが、その正体は全くわかっていません。暗黒物質の候補は多種多様なものがあります。その中でも極めて弱く相互作用するボゾン(スピンが0や1の素粒子)を考えると、熱かった宇宙初期に自然に生成され現在の暗黒物質の量を説明することが知られていました。このような粒子は、稀に物質に吸収されてエネルギーを付与し信号を与えると期待されています。本施設のXMASS実験グループの検出器はこの信号を高感度で探索することができます。特に電子の質量の約1/10から1/5程度に相当する40keVから120keVの質量を持つ粒子について世界最初の探索を世界一の感度で行いました。165.9日のデータ(有効質量41kg)を解析した結果、残念ながら粒子による有意な信号は見つかりませんでしたが、この質量領域の粒子が自然に生成されて暗黒物質を説明するシナリオは正しくないことが明確になりました(図1)。

暗黒物質の正体を突き止める研究は、現在まで例えば超対称性理論の予言するニュートラリーノ等が有力候補の一つとして探索が続けられています。しかしこれまでの所加速器を使った実験を含めて皆が認める兆候は見えてきていません。さらには超対称性粒子等の持つ特性(冷たい暗黒物質)が観測とよく合致せず、もっと質量の軽い暗黒物質だとより観測をうまく説明するといった議論もあるのです。この状況の下、様々な種類の暗黒物質を偏見なく探索する価値が上昇してきています。本研究はこのような新たな視点を持ち、かつ世界初、世界一の感度での探索の研究結果であったため、高い評価を受けたと考えられます。

今後ともXMASS実験の動向に注目頂ければ幸いです。

図1:極めて弱い相互作用を行うボゾン型粒子(上:スピン0の擬スカラー粒子、下:スピン1のベクトル粒子)と電子の結合定数(縦軸)とその質量(横軸)。黒線は、宇宙初期に自然に生成された暗黒物質が現在の残存量をうまく説明できる結合定数を示す。赤線は本実験の結果を示し、この線より上の(強い)結合定数を実験的に否定したことを示す。黒い線がその上にあることから、上記のシナリオが排除されたことになる。HB starsやDiffuse γ で示される線は、天体物理に基づいた議論による制限を示す。XENON10, EDW-IIは、他のグループの実験結果を示す。

 

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