T2K実験、反電子型ニュートリノ出現現象に関する最初の結果を発表
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素粒子の一つであるニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3種類があることが分かっています。ニュートリノ振動とは、ニュートリノが長距離を飛行するうちにその種類が変化する現象のことをいいます。現在までに、スーパーカミオカンデ実験などにより、大気ニュートリノの振動や太陽ニュートリノ振動が発見されてきました。さらに近年、T2K実験(東海ー神岡長基線ニュートリノ振動実験)では、加速器を用いて人工的に生成したニュートリノを295km離れた後置検出器スーパーカミオカンデに打ち込むことで、 ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの振動現象(電子型ニュートリノの出現現象)を発見し、電子型ニュートリノの出現現象のゆるぎない証拠を世界で初めて確立しました。(関連記事はこちら)
現在、T2K実験をはじめとした世界各地のニュートリノ実験が競って目指しているのが、ニュートリノと反ニュートリノの違い(CP対称性の破れ)の発見です。ニュートリノのCP対称性の破れは、「なぜ宇宙は物質が支配的であり反物質が少ないか」という素粒子や宇宙の根本的な謎を解くための最も有力な手がかりになると期待されています。上で述べたT2K実験での電子型ニュートリノの出現現象の測定結果は、CP対称性が最大限に破れていることを示唆しており、世界中から注目を集めています。
ニュートリノと反ニュートリノの振動の確率を比べることにより、CP対称性の破れを直接調べることができます。そのため、T2K実験は2014年から反ニュートリノのビームをスーパーカミオカンデに打ち込んで、反ミュー型ニュートリノから反電子型ニュートリノへの振動現象(反電子型ニュートリノの出現現象)の探索を開始しました。2015年6月までにスーパーカミオカンデで収集したデータを解析したところ、反電子型ニュートリノ出現現象の候補が3事象発見されました。反電子型ニュートリノ出現事象がない場合に期待される事象数が1.8事象であり、現段階では反電子型ニュートリノの出現現象を決定づけるにはいたっていませんが、これはCP対称性の破れの測定に向けた重要な第一歩です。
今後、T2K実験は反ニュートリノビームを用いた実験を継続し、現在の10倍のデータを収集する予定です。これにより、反電子型ニュートリノの出現現象を確立し、世界に先駆けたCP対称性の破れの発見を目指します。また後置検出器として、スーパーカミオカンデの20倍の体積をもつハイパーカミオカンデを新たに建設することでCP対称性の破れの測定感度を飛躍的に向上させる計画も検討しています。今後、ニュートリノ振動を更に詳細に研究し、ニュートリノ振動の全容を明らかにすることにより、素粒子・宇宙の根源的な謎を解き明かしていきます。
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