【論文紹介】陽子崩壊の現象を探索した最新結果について論文を発表しました

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スーパーカミオカンデ実験グループは、2017年1月7日、陽子崩壊の現象を探索した最新結果について論文を発表しました。

素粒子の究極の理論「大統一理論」によると、この世界の物質はいつか壊れてなくなってしまう

素粒子の標準理論はヒッグス粒子の発見で完成しましたが、なぜ粒子は電子の仲間のレプトンと原子核を構成するクォークに分かれているのか、なぜ力は3種類存在しているのか等、標準理論では答えられない疑問が残っています。このため、標準理論はさらに大きな枠組み、「大統一理論」の一部分であるとの考え方が有力です。この究極の理論では、今まで不滅だと考えられてきた陽子もいつかは壊れることを予言しています。物質は原子から、原子は原子核と電子、そして原子核は陽子と中性子で作られているので、この世界の物質は全て、いつか壊れてなくなってしまうことを意味します。

ニュートリノによるバックグラウンドを従来の半分に減らすことに成功し、陽子崩壊に対しての感度が向上

スーパーカミオカンデでは、5万トンの水を用いてその中の陽子が壊れる現象を観測しようと実験を続けています。陽子には様々な壊れ方が予想されていますが、中でも陽電子と中性パイ中間子に壊れる可能性が高いと、様々な理論モデルが予言しています。中性パイ中間子は直ちに2つのガンマ線に壊れるので、陽電子と併せて3つのチェレンコフリングが検出器内で観測されることになります。陽子崩壊事象を観測する際に邪魔なバックグラウンドとなるのは、実はエネルギーの比較的高いニュートリノが引き起こす事象です。このバックグラウンドを小さく抑えるために、今回新しい解析が導入されました。

ニュートリノ事象では中性子が放出されることが多いのですが、中性子は水中で速度を落として、最後には水素と結びついて重水素を作りガンマ線を出します。この遅れて出てきたガンマ線を捕らえることにより、従来よりもバックグラウンドを半分に減らすことに成功しました。さらに陽子崩壊の感度を向上させるため、もう一点解析方法が改善されました。水中の陽子は酸素原子核に8つ、水素原子核に2つ存在します。酸素原子核内の陽子は核内で運動量を持つことが知られていますが、水素の陽子はほぼ静止しています。このため、酸素原子核内からの陽子崩壊はバックグラウンドが比較的多く、水素の方は少ないという特徴があります。今回の解析には、信号領域を酸素原子核内の陽子と水素の陽子に分離することにより、より陽子崩壊に対しての感度を向上させました。

図:陽子崩壊の信号もバックグランドも3つのチェレンコフリングを作るが、今回の解析では中性子が捕獲されて出てくるガンマ線を捕らえる事により、バックグランドを半分に減らすことに成功した。

陽子崩壊現象は観測されず、陽子の寿命は少なくとも1.6×1034年以上という結果が得られた

およそ300キロトン年のデータを解析した結果、残念ながら陽子が陽電子と中性パイ中間子に崩壊する現象は観測されず、陽子の寿命は少なくとも1.6×1034年以上という結果が得られました。陽電子がミュー粒子に置き換わった崩壊モードも解析しましたが、こちらでは2事象観測されたものの予想されるバックグラウンドの範囲以内でした。

界が崩壊するのは、まだまだずーーっと先のようです。安心しました?

この論文は、Physical Review Dにおいて発表され、重要な論文として”Editor’s Suggestion”に選ばれました。

 

【リンク】発表された論文 [pdf]

【リンク】陽子崩壊とは

【リンク】陽子崩壊の解説動画(ハイパーカミオカンデホームページ)

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