【論文紹介】ブレーザー天体TXS0506+056からの天体ニュートリノの探索

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スーパーカミオカンデ実験グループは、ブレーザー天体TXS0506+056からの天体ニュートリノを探索し、その結果を論文に発表しました。論文はAstrophysical Journal Letters (ApJ Letter)誌に掲載され、Nature Physics誌の”Research Highlights”で紹介されました。

世界中のニュートリノ検出器が未知の天体ニュートリノを探している

スーパーカミオカンデが観測を行なっているニュートリノは、発生源の違いによって名前が付けられています。原子炉から放出される原子炉ニュートリノ、加速器を使って人工的に生成される加速器ニュートリノ、宇宙線と大気との反応により生成される大気ニュートリノなどがあります。特に、天体活動によって生成され地球まで到達するニュートリノは天体ニュートリノと呼ばれ、天体現象を解明する上で重要な役割を担っています。

これまでに、太陽由来・超新星爆発由来・起源の不明な超高エネルギーの天体ニュートリノが発見されています。スーパーカミオカンデを含む世界中のニュートリノ検出器は、新たな天体ニュートリノの観測を目標の一つに探索を行なっています。

IceCube検出器でブレーザー天体からの超高エネルギーニュートリノ信号が観測された

2017年9月22日20時54分(世界標準時)、南極に設置されたIceCube検出器は超高エネルギーニュートリノ信号を観測しました。この情報はすぐさま世界中の天体望遠鏡へ伝えられ、ニュートリノ飛来方向に焦点を当てて追観測が行われました。その結果、このニュートリノの発生源はブレーザーTXS0506+056という天体である可能性が高いことが分かりました。

ブレーザーと呼ばれる天体は、中心に大質量ブラックホールとその両極に細く絞られたジェットを持つ天体を、ジェット方向から観測した天体の総称です。ブレーザーに関する様々な物理現象の理論モデルは、未だ確立されていません。ブレーザーのジェットは主に高エネルギーの陽子で構成されていると考えられています。ジェット内の陽子同士の反応や陽子と宇宙空間のガスと反応することで、様々な中間子(π中間子やK中間子など)が放出されます。それらの中間子の崩壊からのニュートリノをブレーザーニュートリノとして観測しようとしています。ニュートリノは他の物質とほとんど反応しないため、ブレーザーニュートリノの観測によって、ジェット中心付近での粒子の振る舞いやジェットの発生・加速機構に関して有効な情報が得られると期待されます。

ジェット内の高エネルギー陽子同士の衝突や、陽子と宇宙空間のガスとの反応により中間子が生成し、その崩壊によりニュートリノが生じる。

ブレーザー天体からのニュートリノ信号を探索し、世界で始めて1GeV-10TeVのエネルギー領域でニュートリノの放出量に制限をつけた

今回、スーパーカミオカンデにおいて1996年から2018年までの22年間のデータを使用してブレーザーTXS0506+056方向から飛来したニュートリノを探索しました。スーパーカミオカンデはIceCubeに比べて、低いエネルギーのニュートリノを捉えることが可能であり、長期間観測を続けているという特徴があります。

残念ながら、今回の解析からは予測される背景事象に対して有意な信号は発見されませんでしたが、有意な信号が観測されなかったことを基にブレーザーTXS0506+056から放出されているであろうニュートリノの放出量に上限を与えることができました。今回探索したニュートリノのエネルギー領域(1GeV-10TeV)での制限は世界初でした。

マルチメッセンジャー天文学でのスーパーカミオカンデの果たす役割は大きい

今回の解析では1つのブレーザーのみに着目して解析を行いましたが、数百もの天体がブレーザーに分類されています。ブレーザーのみならず、ガンマ線バーストなどの高エネルギー天体起源のニュートリノの観測も期待されています。

また、ガンマ線・ニュートリノ・重力波の3つのメッセンジャーから天体現象を解明しようとする分野、マルチメッセンジャー分野が注目されており、スーパーカミオカンデは重要な役割を果たします。これからも、GeV-TeV領域のニュートリノに高い感度を持つスーパーカミオカンデを用いた天体ニュートリノ探索を続けていきます。

【リンク】発表された論文(pdf)

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