【論文紹介】スーパーカミオカンデとT2Kによるニュートリノ振動の統合解析
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スーパーカミオカンデ(SK)実験とT2K実験グループはニュートリノ振動の統合解析を初めて実施し、その結果がPhysical Review Lettersの注目論文として「Editors’ Suggestion」に選ばれました。
SK実験とT2K実験
SK実験とT2K実験はそれぞれ異なるニュートリノ源を用いて長年にわたり独立してニュートリノ振動研究を進めてきました。SK実験は、大気ニュートリノと太陽ニュートリノを対象とし、1998年には大気ニュートリノ振動を初めて発見しました。一方、2009年より開始したT2K実験は、茨城県東海村のJ-PARC加速器で生成されたニュートリノビームを用い、新たなニュートリノ振動を観測する成果をあげています。
研究の目的
ニュートリノ研究には次の2つの大きな未解決問題があります。
- 「CP対称性の破れ」:ニュートリノと反ニュートリノの振動に違いがあるかを検証する
- 「ニュートリノ質量階層」:ニュートリノの質量状態が「通常の順序」であるか「逆の順序」であるかを解明する
SKとT2Kのデータを統合することで、これらの課題に対する解析の精度を向上させることが期待されます。
研究の特徴
SKとT2Kはそれぞれ異なる強みを持っており、統合解析を行うことで両実験のデータを補完し、不確実性を減らして解析精度を向上させることができます。
T2K実験では、エネルギーが600MeV付近に集中するよう調整されたニュートリノビームを使用し、ニュートリノ振動を精密に測定することができます。また、ニュートリノビームと反ニュートリノビームを切り替えることで、これらの振動の違いを比較することが可能です。しかし、T2K単独では「CP対称性の破れ」と「ニュートリノ質量階層」の値による効果が似ており、これらの分離が困難です。
一方、SK実験の大気ニュートリノデータは幅広いエネルギー分布を持ち、特に高いエネルギー領域では、「質量階層」を測定する感度があります。
正しい統合解析を行うには、2つの実験の系統誤差(測定の特定のバイアスや不確実性)の相関を考慮することが必要です。このため、SKとT2Kでエネルギーが重なる領域において、ニュートリノと物質の相互作用の共通モデルと検出器応答の共通モデルを開発しました。この共通モデルを用いて4種類のニュートリノ振動解析を行ったところ、一致した結果を示しました。共通モデルが両実験のデータを正確に説明できることが確認されました。
結果
ニュートリノ振動解析の結果、ニュートリノ質量階層は「通常の順序」で、CP対称性は破れている可能性がある、という傾向が示されました。この傾向は、SKやT2Kのデータを個別に解析した場合よりも、統合データを用いた場合により強く現れました。また、新しい手法を用いた解析によって、CP対称性の破れの有意性が1.9σから2.0σの範囲で評価されました。
今後への展望
今回の統合解析は、ハイパーカミオカンデのような次世代のニュートリノ実験に向けた重要な一歩となりました。より大きな検出器と改良された解析手法により、ニュートリノ質量階層やニュートリノ振動におけるCP対称性の破れに対する最終的な解答が期待されています。

リンク
発表された論文:
First Joint Oscillation Analysis of Super-Kamiokande Atmospheric and T2K Accelerator Neutrino Data, Super-Kamiokande Collaboration and T2K Collaboration,
Phys. Rev. Lett. 134, 011801 (2025)
arXiv:2405.12488