ハイパーカミオカンデ用水中電子回路をスーパーカミオカンデで試験

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ハイパーカミオカンデのタンクは非常に大きく、光電子増倍管の信号を読み出すケーブルをタンクの外まで伸ばすと150m以上にもなるため、光電子増倍管の微小な信号が減衰してノイズの影響を受けやすくなり、正確な測定が困難になります。このため、ハイパーカミオカンデでは、耐水圧容器に格納した電子回路モジュールを光電子増倍管と同じ構造体に設置することで信号ケーブルを短くすることにしました。一つの水中電子回路モジュールで光電子増倍管24本分の信号をデジタル化、これを光ファイバーでタンクの外まで送るシステムを準備しています。

 

直径30cm, 長さ50cmの耐水圧容器

 

耐水圧容器に格納した電子回路モジュールを光電子増倍管と同じ構造体に設置します。東京大学柏キャンパスでの取り付け試験時の様子。(取り付け試験についての詳細はこちらをご覧ください

 

水中電子回路モジュールは、ステンレス製の耐水圧容器に光電子増倍管を動作させるための高電圧電源、光電子増倍管からのアナログ信号をデジタル信号に変換するデジタイザ回路、デジタル化したデータの処理と転送を行うデータ処理回路などを収め、これを水中で利用できる特別なケーブルで光電子増倍管や読み出し用の計算機と接続するものです。それぞれの部品は、イタリア、スイス、スペイン、フランス、ポーランド、イギリス、韓国、日本の8ヶ国で分担して開発を行ってきました。

 

スイスグループが作成した耐水圧容器内の電子機器の設置および配線モデル

 

耐水圧容器と電源装置の設計はスイスグループの担当で、すでに設計が完了し、製造準備または製造が始まったところです。水中で用いる特殊な信号ケーブルやコネクターは日本が担当し、こちらも開発がほぼ終了しています。デジタイザ回路はイタリアグループが担当、データ処理の電子回路はスペインとポーランドが担当し、それぞれ試作品が所定の性能を満たすことを確認しました。外水槽の電子回路はイギリスグループがイタリアグループと協力して開発しています。実際にはこのような水中電子回路モジュールを約1000個運用するため、すべてを同期する必要があります。フランスグループはイタリアグループと協力して、この同期システムの開発、製造を主導しています。フランスと韓国のグループは、電子回路の較正・評価を行う電子回路の開発を行っています。

今回の試験は、スーパーカミオカンデの電子回路の一部を、完成したハイパーカミオカンデ用の試作水中電子回路モジュールに置き換え、実際にハイパーカミオカンデと同型の検出器であるスーパーカミオカンデの光電子増倍管の信号を測定することで、その動作を検証するものです。本番に近い環境で、電子回路の内的ノイズレベルや、動作、性能の確認を行うほか、宇宙線ミューオンやニュートリノの観測、超新星爆発ニュートリノの検出を想定した1チャネル当たり1秒間に最大約100万個もの連続信号の観測などを行い、実際の検出器で必要な性能を出すことができるかを試験します。また、長時間の安定的なデータ読み出しと各機器の監視の並行動作の確認も試験します。

試験結果を元に最終調整を行い、電子回路を量産へと進めます。2025年度後半には、すべての部品をスイスの欧州原子核研究機構CERNに集め、水中電子回路モジュールの組み立て作業を行います。その後ハイパーカミオカンデのタンクへ光電子増倍管と共に取り付けられることになります。

 

試験用の電子回路システムのセットアップ全体

 

信号をデジタル化する電子回路を水中モジュール内の支持部材に取り付ける竹本康浩特任助教。1枚のボードで12本の光電子増倍管の信号をデジタル信号に変換できます。

 

水中容器の蓋を貫通するケーブルを電子回路や電源へと接続。

 

 

4人がかりで電子回路をステンレス製の耐水圧容器に収めます。

 

ボルトをしっかり締めて水槽へ沈めます。

 

水槽の水を冷却する装置を設置し、電子回路モジュールの温度上昇を抑えます。

 

黒いケーブルはスーパーカミオカンデの光電子増倍管の信号ケーブルや同期信号用のケーブルに接続されています。
機器監視の一例:回路の温度モニタ 実際の運用と同様に、水槽を冷却することにより、対水圧容器が冷却され,内部の電子回路の温度の上昇が抑えられているのがわかります。

 

今回の試験に参加している電子回路開発チームのメンバー。左から片岡洋介助教、慶應義塾大学修士課程1年川端篤史さん、Guillaume Pronost特任助教、竹本康浩特任助教

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