ハイパーカミオカンデ実験、本体空洞施設の掘削開始

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2022年11月から岐阜県飛騨市神岡町において、ハイパーカミオカンデ実験の本体空洞施設の掘削が開始されました。人工地下空洞としては世界最大規模となる大空間の掘削は、建設工事の山場です。2つのノーベル物理学賞に繋がったカミオカンデ実験とスーパーカミオカンデ実験に続く次期計画となるハイパーカミオカンデ実験は、世界最大の地下観測装置を用いて、ニュートリノの観測や陽子崩壊の探索を行ない、宇宙の進化や素粒子の基本法則の解明を目指す国際共同プロジェクトです。研究者は空洞や検出器の設計・計画に関して日々現地視察と協議を重ね、2027年の装置完成と実験開始を目指しています。

 

3代目カミオカンデの挑戦

世界中でニュートリノ研究が進められるさきがけとなったカミオカンデ実験、ニュートリノの性質を次々発見したスーパーカミオカンデ実験に続く、3代目となるハイパーカミオカンデ実験は、これまで培ってきた高いニュートリノ実験技術を元に実験感度をさらに向上させ、ニュートリノ研究の未来を切り開きます。

ハイパーカミオカンデ実験は、ニュートリノの精密測定や陽子崩壊の探索を通して、宇宙の進化や素粒子の基本法則の解明を目指すものです。2020年2月に正式に計画がスタートし、国際共同研究プロジェクトとして世界約20カ国から500名を超える研究者が参加し、2027年の実験開始に向け現在建設が進んでいます。

ハイパーカミオカンデ検出器は、岐阜県飛騨市神岡町の山の地下600mに設置されます。検出器は円筒形の水タンクで、水の総質量は26万トン、そのうち観測に用いる有効質量は19万トンとスーパーカミオカンデの10倍規模になります。タンクの壁には、スーパーカミオカンデの2倍の性能を持つ超高感度光センサーが約40,000本取り付けられます。検出器の大型化と高性能化により、ニュートリノの性質のさらなる解明や、陽子崩壊などの稀にしか起こらない事象の観測、天体から飛来するニュートリノ観測による時々刻々の天体現象の理解などが期待されます。

ハイパーカミオカンデ実験共同代表者の塩澤真人教授(東京大学宇宙線研究所)は、「ハイパーカミオカンデは、謎に満ちた素粒子ニュートリノや陽子の崩壊現象の観測を通して、素粒子や宇宙の謎に挑戦するプロジェクトになります。国際パートナーとの協力によって、世界に貢献する素粒子物理学と天文学のプログラムを実現したいと思います。」とハイパーカミオカンデの重要性を強調します。

 

ハイパーカミオカンデ検出器の概観

 

安全第一、予定通りに進む掘削工事

ハイパーカミオカンデ検出器が設置される本体空洞施設は、直径69m、高さ73mの円筒部とそれを支える高さ21mのドーム部からなり、地下の人工空洞としては世界最大規模となります。前人未到の挑戦となるこの超巨大空洞掘削に向け様々な地質調査が2003年から行われてきました。また、空洞掘削や検出器の設計・計画についても、現地の視察や相談を重ね、各方面の専門家との意見交換も行ないながら、慎重に検討を進めて来ました。

 

掘削予定地のボーリング調査

 

2020年度には、総長96mの新設調査坑道と総長725mのボーリングを用いて、建設地の岩盤の状態を詳しく確認する大規模な調査が行われました。さらに、トンネル坑口のヤード造成や配電、給排水設備設置などが行われました。そして本体空洞施設へ至るためのアクセストンネルの建設は2021年5月から開始されました。

 

掘削開始直後のアクセストンネル入口

 

1.9kmのトンネルを約9ヶ月で掘り進め、2022年2月にはその先のアプローチトンネルの掘削が始まりました。アプローチトンネルは3つに分岐して、本体空洞底部、中間部、上部に取り付きます。2022年6月には、本体空洞上部へのトンネルが空洞ドームの中心部に到達しました。その後、本体空洞を取り巻く周辺空洞の掘削が行われ2022年11月に周回坑道が貫通しました。

検出器施設グループ副リーダーの浅岡陽一特任准教授(東京大学宇宙線研究所)は、「新型コロナによる様々な制約の中、予定通りアプローチトンネルの完成を迎えることができました。トンネル工事の支障となる湧水もなく、長孔発破等の掘削技術を駆使することで、短期間に掘り切ることができました。遅れるのは一瞬ですが、取り返すには日々の積み重ねしかありません。施工業者と協力し、安全第一、現場優先で掘削工事を進めています。また、地域住民や飛騨市の協力には大変感謝しています。その期待に応えるべく、計画通りに実験を開始し長期安定運用を実現することで、神岡町や飛騨市の活性化にも貢献したいと考えています。」とコメントしています。

 

アプローチトンネルの第一分岐点
空洞ドーム中心部での工事関係者集合写真

 

前人未到の超巨大地下空洞掘削の開始

そして2022年11月いよいよ超巨大地下空洞の掘削が開始されました。検出器建設の最も重要な局面を迎えたことになります。空洞上部のドーム部は天頂部からかたつむりの殻のように掘り進め、天井部にアンカーを埋め込んで岩盤の安定性を確保しながら空間を広げていきます。

完成時の直径が69mとなるドーム部は、その上600m分の山の圧力に耐え、安定した空間を保持する必要があります。ドームの拡張作業は安全を第一に慎重かつスピーディーに進められていきます。大空間を保持する要は何といっても日本有数の堅牢な岩盤、太古に大きな圧力を受けて造成された飛騨片麻岩です。その地山の力を総数600本以上にもなるアンカーがサポートします。さらに日々の計測データとシミュレーションを比較しながら岩盤の安定性を確認し、アンカーの長さや間隔、掘削の順序を計画し施工していきます。2年かけて空洞掘削を行い、その後水槽ライナー設置工事へと移っていきます。

検出器施設グループリーダーの中山祥英准教授(東京大学宇宙線研究所)は「スパンが69mにおよぶ巨大地下空洞掘削は人類がこれまでに経験したことのないものであり、特にドーム部分の掘削はさまざまな困難が予想される難工事です。関係者全員で一岩となって乗り越え、後に続く工事に勢いをつけられればと思っています。 」と今後の抱負を語りました。

 

掘削中のドーム部分

 

国際協力のもと2027年実験開始を目指す

ハイパーカミオカンデ計画は、日本をホスト国とする国際協力科学事業です。日本の分担は、ハイパーカミオカンデ検出器の地下空洞掘削、水槽と構造体、内水槽光センサーの半数、水循環システムの主要部分、初段データ解析システム、J-PARC加速器およびビームラインのアップグレード、前置検出器のための施設整備になります。一方海外参加国の分担は、光センサーの防爆カバー、内水槽光センサーの残り半分、外水槽光センサー、データ読み出し回路、検出器較正システム、前置検出器等となります。現在海外参加国でも予算措置が順次行われ、機器の生産に向けた準備が進んでいます。

ハイパーカミオカンデ実験共同代表者のFrancesca Di Lodovico教授(キングス・カレッジ・ロンドン)は、「ハイパーカミオカンデの他に類を見ない性能と、カミオカンデシリーズ実験の優れた実績は、国際的にも関心を集めています。ハイパーカミオカンデがその能力を最大限に発揮し、2027年以降、世界中の科学者にとって今後何十年にもわたって不可欠となる高品質のデータを生み出すために、多くの国のグループがその専門知識を提供しているのです。」と述べています。

ハイパーカミオカンデ実験グループは2027年の予定通りの実験開始に向け、世界中の研究者の英知とリソースを結集し、プロジェクトの実現を目指しています。

 

2023年3月ハイパーカミオカンデ共同研究者会議にて

 

 

 

 

 

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