施設長より新年のご挨拶
施設からのお知らせ
新年のお慶びを申し上げます。昨年はスーパーカミオカンデ装置のガドリニウム濃度を3倍にする作業、ハイパーカミオカンデ装置の本体空洞建設開始、国際研究集会NNN22-Hidaの飛騨市内での開催など、コロナ禍の困難な中での苦労がありましたが無事行うことができました。これらは皆様の東京大学の研究に対する常日頃のご支援・ご協力のおかげであり、改めて感謝いたします。そして2023年が皆様にとって素敵な一年となることを願います。神岡宇宙素粒子研究施設では、各実験の大きな目標に向かってしっかり前進する良い年にしたいと思います。
今年2023年は、ハイパーカミオカンデの建設開始からちょうど3年が経ち、7年におよぶ建設期間の後半に突入していきます。この前半のハイライトは、ハイパーカミオカンデの本体空洞のドーム部分の完成になる予定です。世界で最も大きな地下空洞となるハイパーカミオカンデですが、空洞上部にあたるドーム部分を掘るのが一番の難工事といわれており、今年は工事の最大の山場を迎える年といっても過言ではありません。完成したドームは直径で70メートル、中心部の高さが20メートルにもなります(図1,2)。70メートルというとサッカーコートの横幅と同じくらいの長さになりますが、それほど巨大なドーム状空洞が完成することになります。
図2 ハイパーカミオカンデトンネル掘削が本体空洞ドーム中心部分に達した時の集合写真(2022年6月)。この時のドーム部分は直径、高さ約9m。
もう一つ前半のハイライトを挙げておくと、光センサーや電子回路など、ハイパーカミオカンデの内部に取り付ける機器の生産を始める準備になると思います。こちらは日本だけでなく多くの海外参加国との国際協力により進めるもので、やはり難しい課題になります。例えば光センサーの出力信号を読み出す電子回路は、日本、フランス、イタリアの3グループによるコンペティションが昨年行われました。多くの議論を重ねるために半年以上かかりましたが、最終的にイタリアグループの設計を採用することが無事決定されました(図3)。2022年のうちに全ての機器の設計と予算確保を終わらせたかったのですが、光センサーの精査が必要になったこと、さらに戦争や物価高騰の問題もあり、2023年に持ち越されてしまいました。これ以上大きく遅れることのないように進めたいと思います。
7年間の建設を経た2027年には、自然界の基本法則や宇宙の成り立ちの理解を進められることを期待しています。ハイパーカミオカンデ実験の目的の一つは、陽子(ようし、原子核を構成する粒子)がより軽い粒子に自然に壊れる現象の発見です。現代の素粒子物理学では陽子は未来永劫安定(壊れない)とされており、壊れることが発見されれば、素粒子物理学のパラダイムシフトにつながると期待されるほどの大事な研究テーマです。また陽子が壊れれば、人間も星も銀河も未来永劫ではなく、宇宙の遠い遠い未来には存在できないという結論にもなります。ハイパーカミオカンデは、世界最大の陽子崩壊実験であり、もっとも発見に近い実験となります。
予定通りの実験開始に向けて、2023年も正念場が続きます。皆様のご支援とご協力を引き続きよろしくお願い致します。
東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設長
塩澤真人