監修

早戸 良成 准教授
武長 祐美子
(東京大学宇宙線研究所
神岡宇宙素粒子研究施設)

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もしもドーム球場に
ハイパーカミオカンデを置いたら?

神岡鉱山の地下に2027年に完成予定の巨大な実験装置・ハイパーカミオカンデ。
初代カミオカンデや、現在稼働中のスーパーカミオカンデとどれぐらい大きさが異なるのか?
そのスケール感をできるだけわかりやすくお伝えします。

野球中継などで目にすることも多い東京ドーム。

ハイパーカミオカンデは東京ドームに収まらない?

内野がすっぽり収まるスーパーカミオカンデ

ハイパーカミオカンデのサイズは、直径68m×高さ71mとなります。「なぜこんなに巨大な装置が必要となるのか?」は、あとで詳しく説明するとして……これって実際どのくらいの大きさか、イメージできるでしょうか?
わかりやすくするために、東京ドームのグラウンドに置いてみたときのことを想像してみましょう。まずは現在稼働中のスーパーカミオカンデから。

東京ドームのグラウンド面からの高さは、約62mだそう。スーパーカミオカンデのタンクは直径39m×高さ42mなので、何とか収まるサイズです。マンションで言えば、14階ぐらいの高さです。
直径は、ホームベースからセカンドまでの距離約39mとほぼ同じなので、内野がすっぽり収まるぐらいの面積をイメージしてもらうといいかもしれません。25mプールの長さと比べると約1.7倍です。

ちなみに初代カミオカンデのサイズは、直径19m×高さ16mです。マンションで言えば、5階ぐらいの高さ。直径はマウンドからホームベースまでの距離約18mよりも少し短いぐらいです。25mプールの長さと比べると約0.6倍です。

初代カミオカンデからどんどん巨大化して性能アップ

ハイパーカミオカンデは天井を突き抜けるほど大きい

では、ハイパーカミオカンデのタンクを置いてみましょう。高さ71mなので、天井を突き抜けてしまうことになります。札幌ドームなどの比較的大きなドームでもグラウンド面からの高さは68mなので、やっぱり収まりきりません。マンションで言えば、23階ぐらいの高さです。
直径はスーパーカミオカンデの約1.7倍の68mなので、ホームベースからセンターの手前まで届きそうなサイズです。サッカーコートの横幅がちょうど68m……と言うと、サッカー好きな方にもわかりやすいかもしれません。25mプールの長さと比べると約2.7倍です。

なぜこんなに大きなタンクが必要なの?

地下大空洞に設置されるハイパーカミオカンデ

ハイパーカミオカンデは、岐阜県飛騨市神岡町の地下に建設されます。さまざまな粒子が飛び交う地上を避けて、山をフィルター代わりにするためです。他の粒子とは違い、ニュートリノは地球のひとつやふたつ、やすやすと通り抜けてしまうので地下の方が観測しやすいのです。巨大タンクを設置するために2022年から掘削が始まる地下空洞のサイズは、直径69m×高さ88mにもなります。人工の地下空洞としては世界最大級です。

ハイパーカミオカンデ設置予定地。ここから巨大空洞を掘削する。

大量の水の中の粒子を利用して実験

ハイパーカミオカンデの巨大なタンクは、歴代のカミオカンデシリーズと同様、超純水で満たされる予定です。これは、水の中の粒子をさまざまな形で利用するため。たとえば、なんでも通り抜けてしまうニュートリノも、ごくまれに物質の中の粒子と衝突することがあるので、比較的安価に用意できる水(の中の粒子)を利用しているのです。水の量は、スーパーカミオカンデでは5万トンだったのが、ハイパーカミオカンデでは26万トンになる想定です。

また、水分子の中の原子の核にある「陽子」を観察する目的もあります。これまで壊れたところを観測されたことのない陽子ですが、「実は寿命があるのではないか」という説があります。ただ、その寿命は100億年の100億倍の100億倍以上という途方も無い長さなので、できるだけたくさんの陽子を集めて崩壊を観測しようとしています。

月面の懐中電灯の光もとらえる光センサー

ちなみに、このニュートリノや陽子を「見る」役割を果たすのが、タンクの内側にびっしり取り付けられる「光電子増倍管」という光センサーです。スーパーカミオカンデの光電子増倍管は「月面の懐中電灯の光もとらえられる」ほど高性能なものでしたが、ハイパーカミオカンデの光電子増倍管は、さらに2倍の感度にパワーアップ! 設置本数もスーパーカミオカンデの1万1129本のおよそ4倍となる約4万本となる予定です。
サイズアップはもちろん、こうしたさまざまな工夫によって、ハイパーカミオカンデは10年でスーパーカミオカンデ100年分のデータを収集可能に。本来なら生きているうちにわからなかった宇宙や素粒子の謎が、近い将来わかるようになるかもしれません。ぜひ楽しみにしていてください。

この光電子増倍管が、タンクの内側に約4万本取り付けられる。

ハイパーカミオカンデは
巨大なカメラ?

光電子増倍管は、超高性能な
カメラのセンサー(の画素)のようなもの。
ハイパーカミオカンデは、
このおかげで光子1つからとらえられる
巨大なカメラとなります。