検出器について

検出器の特徴

世界最大の地下水槽

ハイパーカミオカンデ検出器は、ニュートリノや陽子崩壊などの物理観測を目的として、岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下600mに設置します。

「水チェレンコフ検出器」と呼ばれるタイプの検出器で、直径68m、深さ71mの円筒形の巨大水槽に、非常に透明度の高い「超純水」を満たして実験を行います。地下に建造される水槽では世界最大となります。

2層式水チェレンコフ検出器

ハイパーカミオカンデ検出器は、「内水槽」検出器と「外水槽」検出器という二つの光学的に独立した検出器部から構成されています。

内水槽は主検出器部であり、内水槽の側面には最大で40,000本の50cm径の超高感度光センサーが敷き詰められます。この高感度光センサーを用いることで、ニュートリノ反応や陽子崩壊から発生する非常に微弱なチェレンコフ光を正確に測定することができます。これにより、電子やミューオンと呼ばれる素粒子を99%以上の正確さで粒子識別することができます。この非常に高い粒子識別能力はハイパーカミオカンデ検出器の特徴の一つです。

外水槽は内水槽の外周を覆うように設置され、外水槽の側面には最大で10,000本の8cm径の高感度光センサーが敷き詰められます。外水槽検出器は、検出器の外から入ってくる宇宙線など、物理観測にとってノイズとなるものを識別して除去するために使われます。宇宙線などのノイズ事象の識別能力は99.9%以上です。

このように、ハイパーカミオカンデ検出器は巨大な高感度・高性能な検出器です。この検出器を用いることで、ハイパーカミオカンデでは多種多様な物理観測を同時に行うことができ、それら一つ一つの観測の物理結果について世界初の発見および世界最高精度での結果を得ることを目指します。

超高感度光センサー

スーパーカミオカンデのものより2倍も感度が高い、世界最大かつ最高感度の光センサーの開発を行っています。光の量だけでなく検出時間もより正確に測ることができるようになります。

水チェレンコフ検出器における光センサー

スーパーカミオカンデやハイパーカミオカンデといった大型水チェレンコフ検出器では、ニュートリノ反応や陽子崩壊によって発生する非常に微かな光(チェレンコフ光)を測定するために、高感度で大きな光センサーが必要となります。

スーパーカミオカンデでは、直径50cmで世界最大の受光面を持つ光電子増倍管が光センサーとして使われています。この光電子増倍管が受けた光は電子へと変換され、その電子は高電圧によって真空中を加速されます。内部にはダイノードと呼ばれる金属の板が並び、電子がぶつかるたびに、その数はなだれ式に増えていきます。微弱な光の粒を電気信号として数えることで、スーパーカミオカンデでは約1万個の光センサーを並べてチェレンコフ光の情報を観測できます。

個々の光センサーでは、光が「いつ」「どれだけ」届いたかを測定します。この検出性能は、水チェレンコフ検出器全体の観測性能に大きく影響します。たとえば、光を受けた時間の測定精度があがると、ニュートリノ反応や陽子崩壊の発生点をより正確に推定できるようになります。さらに、受けた光の検出量が増えて測定精度があがると、反応で生成された素粒子のエネルギーをより正確に推定できるようになります。 また、これらの性能向上により、バックグラウンドと呼ばれる偽の事象を排除しやすくなります。

2種類の新しい光センサー

より性能の良い光センサーで検出器の観測性能を向上できれば、目標とする物理を高い感度でより深く研究できるようになります。ハイパーカミオカンデでは、4万個の光センサーをスーパーカミオカンデの水深41mより大きな71m水深の内水槽で使用するため、新型光センサーは高性能でありがならも高い水圧に耐える必要があります。
ハイパーカミオカンデでは2種類の光センサーの併用を検討しています。

1つは、スーパーカミオカンデで使われている光電子増倍管から、光検出効率・光量測定精度・時間測定精度といった基本的な性能をいずれも約2倍へ向上させた新型大口径高感度光電子増倍管です。強度も向上され、約2倍の水圧に耐えるように改良されました。また、バックグラウンドとなる放射性物質の含有量を半分に抑えられました。このためにいくつかの大きな改良を加えました。たとえば、光電面の製法を改良して電子を最初に受け止める金属板の形状を変更することで、微弱な光を検出する高い感度を得られました。また、電子の数を増幅するダイノード構造を大幅に変更して、光を受けた時間の測定精度や光量の測定精度も大幅に向上しています。

2020年より新型光電子増倍管の大量生産が始まりました。納品された光センサーは、安全に長期で使用するための確認と性能測定を経て、壁面に取り付けられる日まで保管されます。2027年の実験開始まで約6年をかけて製造していく予定です。

もう1つは、「複眼」光センサーです。検出時間精度の高い直径8cmの光電子増倍管を複数束ねて密閉し、カメラの解像度を上げるように詳細なイメージングが可能になります。イタリアやカナダ、ポーランドなどの諸外国と日本の国際協力により完成を目指しています。

2種類の光センサーを併用することで、検出精度の向上が期待されます。