先輩からの声
冨谷卓矢
東京大学大学院理学系研究科 博士課程3年(2025年4月現在)
まだ誰も見たことのない現象を自分の手で探索する
私の研究内容は、「宇宙がどのように始まったのか」、「宇宙には終わりはあるのか」といった宇宙の成り立ちなどに関わる陽子崩壊の探索です。夜空に広がる星々や私たちなど、身の回りの物質を形作っている陽子が、本当に壊れるのか。それを確かめるためにスーパーカミオカンデ(SK)においてデータ解析をおこなっています。
陽子崩壊は素粒子物理学の理論によって予言されている現象ですが、さまざまな解析がおこなわれてきたにもかかわらず、未だその現象は発見されていません。また、この解析では陽子崩壊とよく似たニュートリノ反応が背景事象(ノイズ)となり、それらを見分けることが非常に困難になります。そのため私は、従来の解析手法よりも高い精度で解析をするために、SKの検出器内部で起こる粒子の反応の詳細を調べたり、より良い解析にするためのアイデアを考えたりしながら探索をおこなっています。誰もまだ見つけたことのない現象を探索することは、とても楽しく、やりがいがあります。また、解析の一部に人工知能(AI)などの機械学習手法も新たに導入して、飛躍的な解析改善も目指しています。
神岡施設には、解析のことについて共同研究者と議論するために滞在することがあります。研究に集中できる環境が整っているだけでなく、他実験の学生たちとも交流ができ、自分の専門分野以外の話題についても議論できるのがとても楽しいです。車で20分ほどの場所にある富山では、美味しいお寿司などの海鮮料理が食べられたりできて研究合間の良いリフレッシュにもなっています。
兼村 侑希
東京大学大学院理学系研究科 博士課程3年(2024年4月現在)
今までにないやり方で、これまで以上の研究成果を出す。
私が現在進めている研究は2つあります。 1つ目は Neural Network を用いた超新星背景ニュートリノ(SRN)の探索実験です。2020年7月からスーパーカミオカンデ(SK)でガドリニウム実験を開始しました。おかげでSKのSRNに対する感度が向上しましたが、さらにこの反電子ニュートリノの事象とノイズとの区別を効率よく選別するようなアルゴリズムが必要となっています。そこで私はニュートリノの信号事象とノイズ事象の区別を Neural Network という機械学習で行おうと考え、その研究を行っています。
2つ目はSKの水中ラドン濃度測定の自動化です。SKでは太陽ニュートリノ観測実験を行うために、その実験のノイズ事象となる放射線の1種であるラドンを極力取り除き、SK中のラドン濃度を監視する必要があります。その一環としてSKから水をサンプリングし、その水からラドンを放散させ濃度を測定します。この作業をPLC回路や自動装置を利用して、正確な測定を維持しつつラドン濃度測定をより簡潔に行えるようにしています。
どちらもこれまでに誰も試したことのない手法で研究を行うので非常にやりがいを感じています。
私は研究所から車で数十分程度の所にあるマンションで生活しています。交通面などにお いて多少不便ですが、SK という日本一の検出器を自分の手で動かしてデータを取得し解析 する事ができるので、宇宙物理の実験を本格的にやりたい人にとっては最高の研究環境で、 神岡でなければできない貴重な経験ができると思います。
ぜひ後輩のみなさまと一緒に、SK で日本唯一の実験と研究ができたらと思います。
三木 信太郎
東京大学大学院理学系研究科 博士課程1年(2022年4月現在)
誰もやったことのない試行錯誤が楽しい
私は主に2つの研究を進めていて、1つがハイパーカミオカンデ用に製造された光センサーの試験です。光センサーを暗室に入れて、微弱な光を当てたときの応答をテストしています。ハイパーカミオカンデの最も重要な構成要素のひとつである光センサーは検出器全体の性能を左右するものであり、それを調べるのはすごく面白いです。また、今調べている光センサーが数年後にはハイパーカミオカンデの底でニュートリノからの光を捉えているのかなと想像するととてもワクワクします。もう1つの研究が、スーパーカミオカンデでの大気ニュートリノ振動の解析です。2020年に検出器の水にガドリニウムを溶かしたことでよく見えるようになった中性子の情報を使って、ニュートリノをより精度よく観測することができないかと考えています。誰もやったことのないことなので試行錯誤の連続ですが、試したことの結果を見るときが楽しいです。
博士課程進学を機に研究所から車で20分くらいのアパートに引っ越し、修士時代にも増して神岡での研究生活を充実させていく予定です。研究所の周りはコンビニもないようなところですが、自然の中をあちこち探検していると小学生に戻ったような楽しさがあります。散歩中に近隣住民の方と立ち話をしたりと、田舎ならではのゆったりとした生活を満喫しています。
ぜひ多くの方と一緒に、スーパーカミオカンデ・ハイパーカミオカンデのポテンシャルを引き出す研究ができたらなと思います。
神長香乃
東京大学大学院理学系研究科 修士課程2年(2023年4月現在)
世界最先端の技術を用いた暗黒物質探索
私はXENON実験という暗黒物質(ダークマター)を探す国際実験に参加しています。実験装置は世界最大規模で、イタリアのグランサッソという山の地下に設置されています。神岡でイタリアの実験?と思われるかもしれませんが、実は以前神岡でも暗黒物質を探すXMASS実験が行われており、XENON実験にはXMASS実験で培われた知識や技術が沢山使われています。また、現在スーパーカミオカンデで使われているガドリニウムで中性子を捕まえる技術が、XENON実験にも導入される予定です。中性子は予想されている暗黒物質の信号と似た信号を作る邪魔者で、中性子による信号を判別する方法が必要とされてきました。この技術によって中性子を判別することで暗黒物質をより低ノイズな環境で探すことができ、発見に近づきます。このようにXENON実験は神岡研究施設における実験の協力を得ており、私も神岡の研究者の方々に教えを請いながら暗黒物質の発見を目指し研究に取り組んでいます。
最近は神岡に3、4週滞在し、東京の実家に1週間程度戻る形で生活しています。他にもイタリアや名古屋大学に出張したり、逆に神岡に出張してきた国内外の研究者と一緒に研究をしています。神岡は周囲に店などはなく物理学者だらけという特殊な環境で東京とは全く異なりますが、先生方や先輩、同期にすぐ相談ができ、研究に集中できる環境なので楽しいです。休日には富山や岐阜を観光して神岡での生活を満喫しています。
篠田 遼太郎
東京大学大学院理学系研究科 修士課程2年(2025年4月現在)
私は現在、ハイパーカミオカンデ用に製造された光センサーである光電子増倍管の試験に携わっています。光電子増倍管に微弱な光を照射し、その応答を見ることで、ハイパーカミオカンデが目標とする物理感度に対して、個々の検出器が十分な性能を持っているかを評価しています。特に安定性の観点から、週単位の長期測定を行なったり、実際の実験環境に近い環境での検出器のふるまいを見るために水中での測定を行なっています。測定では自分の手でセットアップを構築し、信号取得系の整備や測定条件の調整から、データ解析までが可能な環境を整えてきました。実際に手を動かすなかでは一筋縄でいかないことも多く、試行錯誤しながら実験を行うのは大変ですが、自分の測定が実験実現のために少しでも寄与できることに、やりがいを感じています。また、大規模素粒子実験は数十年単位で企画、立ち上げ、運用が行われ、実験の立ち上げに立ち会うことのできる学生はあまり多くはありません。私は、ハイパーカミオカンデ実験開始を数年後に控えたタイミングで、立ち上げに現地で貢献できることは大きな魅力だと考え、神岡施設で研究を行う道を選びました。このようなタイミングで大学院に入学できたのはとても幸運だと思っています。
生活面では、神岡に一ヶ月ほど滞在して研究を行い、節目ごとに実家に帰省するというスタイルをとっています。神岡の自然に囲まれた静かな環境は、集中して研究に打ち込むのに最適です。また、他実験や他研究機関の研究者が頻繁に訪れるため、実験の垣根をこえて活発な意見交換を行える環境も魅力です。