【論文紹介】季節変動によるsub-GeVダークマターの探索 2020年8月18日

ダークマターの最も有力な候補はWeakly Interacting Massive Particles (WIMPs)と呼ばれる、電荷を持たず、通常の物質とほとんど反応しない粒子です。このWIMPsは10-1000 GeV/c2程度の質量を持つと予測されてきました。その発見ために世界中の研究者が探索を行ってきています。たとえばXMASS検出器のキセノン原子核に衝突した際に原子核が跳ね飛ばされ、その反跳エネルギーを捕らえることでWIMPを捉えようとしたのです。しかしながら未だにみんなが認めるWIMP発見の報告はなされていません。

そこで研究者たちは、予想される質量範囲はもっと広くてもよいのではないかと考え始めました。たとえば陽子や中性子の質量(1 GeV/c2以下)よりも軽いの質量を持つ、いわゆるsub-GeVダークマターの可能性も考えはじめたのです。そしてsub-GeVダークマターの捕らえ方についても研究が進みました。そもそもsub-GeVダークマターが原子核を跳ね飛ばしても、観測されるエネルギーが小さく、検出は困難だと長く思われていました。しかしながらある研究者によって、原子核が散乱される際に生じる加速に伴う電磁波の放出を捕らえることで探索できることが示されました。具体的にはX線程度のエネルギーを持つ電磁波がまれに放出されるため、検出が可能と考えられたのです。

その現象を観測するのに、ダークマターが原子核を反跳する信号の季節変動を利用すると感度をさらに向上させることが出来ます(【論文紹介】季節変動によるダークマター探索を参考のこと)。この実験的工夫に基づいて、XMASSのデータを用いて季節変動によるsub-GeVダークマターの探索を行いました。これは世界で初めてダークマターと原子核の散乱から放出される可能性のあるX線を探す手法で行われた探索です。残念ながらそれらしい信号の変動は見えず発見には至りませんでした。その代わり世界初の手法に基づいたsub-GeVダークマターの核子と散乱断面積への上限を付けることに成功しました。

横軸はダークマターの質量、縦軸は核子とダークマターの散乱断面積。 赤い太い線は本研究による結果を示す。信号が見つからなかったため、 この線の上にある領域は否定された。他に多数ある線は様々な実験の探索の結果を示す。 原子核が反跳される際に放出されるX線を探索し、sub-GeVダークマターに初めての制限をつけた。
  • 今回の論文:"Search for sub-GeV dark matter by annual modulation using XMASS-I detector", M. Kobayashi et al. (XMASS Collaboration), Physics Letters B 795 (2019) pp. 308-313