施設長より新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。日頃より皆様から寄せられておりますご支援に感謝いたしますとともに、新しい年が皆様にとって良い年でありますことを祈念致します。

スーパーカミオカンデ(SK)では、本年から新たな実験を始めようとしています。それはスーパーカミオカンデ-ガドリニウム(SK-Gd)実験とよばれています。本年春には0.01%の濃度でGdをSKの純水に導入し実験を開始する予定です。SK-Gd実験の主要な目的は宇宙の初期から起きてきた超新星爆発によって蓄積されたニュートリノ(超新星背景ニュートリノ)を観測することです。

SKの先代にあたるカミオカンデは、1987年に大マゼラン星雲で起きた超新星爆発からのニュートリノを検出しました。その成果は小柴昌俊先生の2002年ノーベル物理学賞につながったように高く評価されました。1987年以降、世界では数多くの地下観測装置が建設されてきましたが、まだ、次の超新星爆発が我々の銀河系でも大マゼラン星雲でも起きていません。超新星爆発は太陽の8倍以上もの大質量を持つ星が、その最後に起こす現象であり、ひとつの銀河あたり30-50年に一度程度と予想されています。1987年から今までの33年間に一回も起きていなくても不思議ではありません。一方、宇宙全体に目を向けると非常にたくさんの超新星爆発が起きています。宇宙には約数千億個の銀河があり、それぞれの銀河には約数千億から1兆個の恒星があります。これらのうちで太陽質量の8倍以上の大質量星の割合を考えると、現時点では1年あたり約1億個の超新星爆発からのニュートリノを私たちは受けていることになります。それが超新星背景ニュートリノです。皆さんの手のひらサイズに一秒間に数千個の超新星背景ニュートリノが通り抜けているはずですが、それをSKでとらえようというわけです。

超新星背景ニュートリノをとらえるためには、レアアースの1種であるGdをSKの純水に添加する必要があります。これによって他のノイズと区別して超新星背景ニュートリノ(具体的には反電子ニュートリノ反応)を同定することができるようになるからです。SKでは2018年にタンクの改修工事をおこない、タンクに止水補強を施しました。また、タンク内の配管の改良もおこない、今までの倍の流速で水を循環できるようにしました。そして、昨年度にはGd用の水循環・純化システムを立ち上げました。このシステムは、Gdを保持したまま他の不純物を取り除くことができるという優れものです。また、放射性不純物が極めて少ない純度の高いGd(具体的には硫酸ガドリニウム)を製造してきました。準備が順調に進んでおり、今年の春にはGdを導入して観測が開始できると考えております。

 ニュートリノ観測においては装置が大きければ大きいほど性能が良くなります。カミオカンデは「有効体積」(ニュートリノ観測に実際に使える体積)が約800m³でしたが、スーパーカミオカンデではそれが22,500 m³でした。そして、それを約8倍大きくし190,000 m³の有効体積をもつ装置「ハイパーカミオカンデ」(HK)を神岡に建設することを計画してきました。昨年暮れに閣議決定された2019年度補正予算案、2020年度当初予算案にHKの建設予算が盛り込まれました。いよいよ2020年からHKの建設を始められる見込みがついてきました。HKではJ-PARC(東海村にある大強度陽子加速器施設)からのニュートリノビームと反ニュートリノビームの振動の違い(「CP対称性の破れ」という)をみることによって、宇宙の物質優勢の謎を解き明かすことが期待されます。J-PARCからのニュートリノビームの実験は、SKでビームを受けるT2K (Tokai to Kamioka)実験として2009年から進められてきていますが、CP対称性の破れの兆候が見え始めています。HKによって確実な証拠を掴めると考えられています。神岡での研究の始まりは、核子の崩壊を捉え、力の大統一理論を証明することでしたが、まだ核子崩壊は見つかっていません。HKでは発見できるかもしれません。

 このように2020年は神岡でのニュートリノ研究が新たなフェーズを迎える年です。そのためには引き続き皆様のご理解、ご支援が必要です。今後ともよろしくお願いいたします。

2020年元旦
東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設長 中畑雅行

ニュース

施設からのお知らせ

〒506-1205 岐阜県飛騨市神岡町東茂住456

0578-85-2116(代表), 0578-85-9620(事務)

0578-85-2121, 0578-85-9640