K2K実験

つくばー神岡間長基線ニュートリノ振動実験

実験の目的

カミオカンデ、スーパーカミオカンデ他による大気ニュートリノ、太陽ニュートリノの観測により、ニュートリノ振動が起こること、つまりニュートリノに質量があることが示唆されました。このことをさらに深く追求するため、宇宙線研究所と高エネルギー加速器研究機構(KEK)とが協力して、長基線ニュートリノ振動実験(K2K実験*1)をスタートさせました。K2K実験では、ニュートリノを茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の加速器を用いて人工的に作って250km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射し、スーパーカミオカンデでこれを観測します。スーパーカミオカンデで観測されたニュートリノが減少していた場合、ニュートリノ振動の確実な証拠となります。 K2K実験は、1999年6月からニュートリノ照射が始まり、2004年11月まで実験を続けました。

(*1)「KEK to(=two=2)Kamioka実験」を略して、K2K実験という愛称が名づけられました。

つくば-神岡間長基線ニュートリノ実験

実験の原理

KEKから発射されるニュートリノはほぼ純粋なミューニュートリノのビームです。大気ニュートリノの観測結果から示唆されるニュートリノ質量(Δm2~3×10^(-3)eV2)では、KEKから発射されたミューニュートリノの多くは250km先ではスーパーカミオカンデで観測されにくいタウニュートリノに変化するので、スーパーカミオカンデでKEKからのニュートリノを観測して、その数を測定することで、ニュートリノ振動を捉えることができます。

また、ニュートリノの種類が変化する割合はニュートリノのエネルギーによって異なるため、スーパーカミオカンデで観測されるニュートリノのエネルギー分布(スペクトラム)を測定するとニュートリノ振動が起こっているときには発射されたときと比べて分布がゆがむと考えられます。数の減少に加えてこのゆがみを測定することでニュートリノ振動をさらに詳しく測定することができます。

ニュートリノの発生方法

KEKの陽子シンクロトロンで陽子を12GeVまで加速してアルミニウムのターゲットに衝突させるとπ粒子等の多数の粒子が発生します。これらの粒子を電磁ホーンによる磁場でなるべく前方(スーパーカミオカンデの方向)に向きをそろえ、ディケイパイプ内を飛行させると、π粒子は崩壊してニュートリノとミュー粒子になります。ディケイパイプの下流にはビームダンプ(放射線シールド)があり、ニュートリノ以外の粒子はここで止められるので、ニュートリノだけが前置検出器を通ったのちスーパーカミオカンデまで到達します。

ニュートリノビーム

神岡に狙いを定める

ニュートリノができてしまうとその向きを変えることはできないので、スーパーカミオカンデの方向に向けて設置したニュートリノビームラインの中でニュートリノの親であるπ粒子の向きをそろえることでニュートリノを「可能な限り」スーパーカミオカンデ方向に飛ぶように調節します。ニュートリノビームが正しくスーパーカミオカンデに向けてとんでいるかどうかは、ディケイパイプと前置検出器との間に設置したミューオンモニターでミュー粒子の方向を測定したり、前置検出器で捕らえたニュートリノ反応の位置、ミュー粒子の方向を測定することで確認します。

前置検出器によるニュートリノビームの測定

K2K実験ではスーパーカミオカンデでニュートリノ反応をとらえ、その数の減少、スペクトラムのゆがみを測定してニュートリノ振動を探索するためにはKEKから発射されたニュートリノの数、エネルギー分布を正確に知る必要があります。これらを測定するために、ビームダンプの直後に前置検出器が設置されています。前置検出器は、ベビーカミオカンデとも呼ばれる1キロトン水チェレンコフ検出器と、ファイングレイン検出器とで構成されています。

前置検出器

1キロトン水チェレンコフ検出器で捉えたニュートリノ反応

ファイングレイン検出器で捉えたニュートリノ反応

KEKからのニュートリノをどうやって区別するのか

スーパーカミオカンデではKEKから発射されたニュートリノ他に、大気ニュートリノ、太陽ニュートリノ、宇宙線ミューオン、岩盤中のラドンの放射能などの信号を常に捕らえています(バックグラウンド反応)。これらとKEKからの人工ニュートリノを区別するために、以下のような方法を用いています。

ニュートリノを作る際、約2秒かけて加速した陽子を1.1マイクロ秒(1マイクロ秒は百万分の1秒)の間に取り出し、アルミニウムターゲットに衝突させます。つまり、ニュートリノは2秒に1回、1.1マイクロ秒の間だけ発射されることになります。また、つくば-神岡間のニュートリノの飛行時間は約千分の1秒であり、KEKでのニュートリノ発射時刻に飛行時間だけ足した時刻にスーパーカミオカンデに到達します。したがって、KEKとスーパーカミオカンデで時刻を正確に合わせて、ニュートリノが到達した瞬間にスーパーカミオカンデで検出された反応を選び出すことで、KEKからのニュートリノ反応を区別することができます。

KEKとスーパーカミオカンデで時刻を正確に合わせるためには、カーナビにも用いられている、GPS衛星からの電波を用いています。K2K実験では、この時刻合わせの精度を考慮した1.5マイクロ秒のタイミングウインドウを設定し、この中で検出された反応をKEKからのニュートリノ反応であるとして選別し、解析を行います。このタイミングウインドウに大気ニュートリノなどのバックグラウンド反応が混入する確率は、実験全体で0.1反応以下と計算されています。

実験の成果

世界初、長基線ニュートリノビームの観測に成功(1999年6月)

1999年6月19日(土)午後6時42分(日本標準時間)に、K2K(KEK-神岡間)長基線ニュートリノ振動実験は、スーパーカミオカンデにおいて最初のニュートリノ事象を観測しました。これは、1998年6月にスーパーカミオカンデ実験が報告したニュートリノ振動の結果の検証に向けての第一歩であり、またこれは、人工的に発生した素粒子を地中250km飛行させて観測した、最初の実例です。この事象は、水の中で起きたニュートリノ事象と一致する特徴を有します。事象の発生時間も、期待される時間から1マイクロ秒(100万分の1秒)以内です。この事象の方向と時間は、実験の検出精度から期待される範囲内にあり、この事象が大気ニュートリノの反応によるものである確率は、1万分の1と推定されます。

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長基線ニュートリノ振動実験(K2K実験)の最近の結果(2002年6月)

1999年6月から2001年7月までに得られた全データを解析した結果、スーパーカミオカンデにより56事象が観測されました。ニュートリノ振動が起きないとした場合、予想される事象数は80.1(+6.2-5.4)であることと比べ、明らかに少なくなっています。エネルギー分布の観測結果と総合して、ニュートリノ振動が起こっていない確率は1%以下となりました。この減少がニュートリノ振動によるとした場合、1998年にスーパーカミオカンデで発見された大気ニュートリノ振動の観測結果と非常に良く一致します。

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K2K実験でニュートリノ振動を確立(2004年6月)

1999年6月の実験開始以来2004年2月までに得られた全データを解析した結果、スーパーカミオカンデにおいて108事象が観測されました。ニュートリノ振動が起きないとした場合に予想される事象数は150.9(+11.6-10.0)であり、明らかに観測された事象数は減少しています。また250km飛行後のニュートリノエネルギー分布を測定し、ニュートリノ振動に特徴的な歪みを観測しました。観測に伴う統計的ゆらぎでこのような事象数の減少とエネルギー分布の歪みの観測結果になる確率は0.01%にすぎません。言い換えると99.99%(**)の確率でニュートリノ振動が起きていることになります。

この結果、1998年にスーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で発見されたニュートリノ振動を、人工ニュートリノを用いた加速器実験で確立したと結論されます。

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