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研究内容

大気ニュートリノ

大気ニュートリノとは

地球には宇宙から「宇宙線」と呼ばれる高いエネルギーの粒子が絶えず降り注いでいます。 その宇宙線が大気中の原子核と衝突すると連鎖的に新たな粒子が生み出される「大気シャワー」と呼ばれる現象が起きます。 その中で生まれるニュートリノが「大気ニュートリノ」です(図1参照)。主にπ中間子、K中間子、およびミューオンが崩壊する時に作られ、 電子ニュートリノとミューニュートリノの二種類が生成されます。

図1:宇宙線が大気に衝突し、大気ニュートリノができる。

図1:宇宙線が大気に衝突し、大気ニュートリノができる。

ニュートリノは地球や我々人間を含めた物質とはほとんど反応せずにすり抜けていきます。 1平方メートルあたり1秒間におよそ100個の大気ニュートリノが通過していますが、私たちが感じることはありません。

大気ニュートリノは地球上の大気中で常に作られ、地球も簡単に通過してスーパーカミオカンデまで到達します。 その飛行距離は大気の厚さ(10kmほど)から地球の直径(約13,000km)まで、さまざまです(図2参照)。

図2:大気ニュートリノは地球全体で作られる。

図2:大気ニュートリノは地球全体で作られる。

スーパーカミオカンデは一日に約8個ほどの大気ニュートリノを観測しています。そしてその飛来方向を調べて見ると、短い距離を飛ぶニュートリノは予想どおりなのですが、長い距離を飛ぶニュートリノは数が予想値よりも減っていることが分かりました。(図3参照)。

これはニュートリノが別のニュートリノに変化する「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象によるものです。 スーパーカミオカンデで観測された現象はミューニュートリノがもう一つの別のニュートリノ(タウ型)に変わった事によるものです。

図3:地球の裏側の大気中で作られ長い距離を飛んできたニュートリノは上向きに検出器に対して飛んできます。右図、下から飛んで来るミューュートリノのデータ(黒+)は、予想値(青線)の半分程しかないことが分かります。

ではミューオン型ニュートリノは本当にタウ型ニュートリノになっているのでしょうか?タウ型ニュートリノは、その反応によって出来るタウ粒子を信号として探します。 ところがタウは即座に多数の粒子へと崩壊をするため、高いエネルギーのニュートリノが起こす「たくさんの粒子が生成される現象(多重粒子現象)」との区別が難しく、タウ自身を見つけることは簡単ではありません。 これを克服するため、多重粒子現象との様々な特徴の僅かな違いをコンピュータを用いて調べ、「タウらしい」事象を探します。

図4はタウ型ニュートリノらしいと思われる事象を集めたものです。上向きの領域(つまりミューオン型ニュートリノの減った領域)に タウ型ニュートリノがほぼ予想通りの数だけ出現していることが分かりました。

図4:タウ型ニュートリノらしいと思われる事象を集めたもの

図4: タウ型ニュートリノらしいと思われる事象を集めたもの。上向きの領域(つまりミューオン型ニュートリノの減った領域)に タウ型ニュートリノがほぼ予想通りの数だけ出現していることが分かりました。

ニュートリノ振動という現象を調べることで様々なニュートリノに対する情報も知る事ができます。 その一つは質量の順番です。ニュートリノ振動の度合いは質量の差(正確には(質量)2の差)によって決まりますが、 その差がプラスなのかマイナスなのかによって観測される事象数が変わることが予言されています。 現在までにこれは未解決の問題ですが、これからも大気ニュートリノの観測データを貯めていくことで明確な発見が出来ると期待しています。

大気ニュートリノは地球の真ん中を通ってきます。地球の中心の核と呼ばれる領域の物質密度はおよそ13g/cm3と高く、 地殻とよばれる我々が立っている場所よりも数倍の密度があります。 この高密度の場所を通過する時、あるエネルギーの条件を満たしたニュートリノにおいてニュートリノ振動が増進されることが予想されています。 この物質による効果は今のところ実験的には有為には確認されておらず、興味深い点です。 (上述した質量の順番によってニュートリノ振動の予想が変わるのは主にこの影響が変わるためです。)

また最初に述べたとおり、大気ニュートリノは宇宙線によって作られるため、それがどのようなエネルギーなのかは宇宙線を知る上で興味深いものです。 図5は大気ニュートリノのエネルギー分布です。スーパーカミオカンデ以外の実験とも合わせて載せています。 実線は詳細な計算による予想値で、スーパーカミオカンデの観測を再現していることが分かります。

図5:大気ニュートリノのエネルギー分布

図5: 大気ニュートリノのエネルギー分布。赤と青の点がスーパーカミオカンデの観測による値。実線が計算による予想値で、スーパーカミオカンデの観測を再現していることが分かります。

また宇宙線への地磁気の影響で西から来るニュートリノと東から来るニュートリノの数に差が出る事が予想されますが、それもハッキリと見えています(図6参照)。 ニュートリノ自身は磁場の影響を受けないので、これはその親の宇宙線(主に陽子)への地磁気の影響によるものです。陽子はプラスに電気を帯びてるため、磁場の影響を受けます。 予想値が良く合っていることは、地磁気や大気中での反応も含めて大気ニュートリノの計算が良く合っていることを(つまり我々の理解が正しい事)を裏付ける観測結果です。 また別の見方をすると、我々の観測しているニュートリノは宇宙から地球に降り注いで来た電気を帯びた宇宙線によって作られたニュートリノ(=つまり「大気ニュートリノ」)だという事を 図6は示しています。

図6:大気ニュートリノの東西分布

図6: 大気ニュートリノの横方向の方向分布。黒がスーパーカミオカンデによる観測値、赤と青が計算による予想値。宇宙線への地磁気影響で、東からくるニュートリノよりも西からくるニュートリノの方が多くなっていることが分かります。